『適当論』 高田純次 ソフトバンク新書
適当論 [ソフトバンク新書] 高田 純次 ソフトバンククリエイティブ 2006-03-16 売り上げランキング : 279702
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テレビで観る高田純次は、本当に適当だ。懐かしの『たけしの元気が出るテレビ』では、毎回変装してはその適当さが前面に出ており、何とも言えないおもしろみを醸し出していました。最近ではその独特のキャラクターが買われてか、地井武男の『ちいさんぽ』、加山雄三の『ゆうゆうさんぽ』を引き継ぎ、『じゅんさんぽ』という散歩番組に抜擢されました。前任者とは全く違うキャラの高田純次が紡ぎ出す『じゅんさんぽ』は、これから期待の番組であります。
ということで、本書は高田純次が書いた本ということで、その適当の源流はどのあたりにあるのかが、ひょっとしたら分るかもしれない。また、その適当っぷりは、果たして素なのか、演技なのか、戦略なのか、そのあたりの本音も分るかもしれない・・・。
と、期待してみたのだが、あまりそのような本ではないかもしれないので、そのあたりをお望みの方には肩すかし、ある意味、適当に流されてしまうだろう。
本書は、最初に精神科医の和田秀樹と対談しながら、心理テストを受けて、その結果を和田秀樹が評価するという章があり、続く章では、またもや和田秀樹が高田純次のこれまでの発言をポジティブに(ずいぶん強引な感じもするけれど)解釈するという、本書の半分は和田秀樹の執筆のようなところも適当です。さらにその後は、高田純次が過去に出した本からの抜粋を元に、それをまた誰かが解説をするという感じで、結局高田純次が語っているのは本書の最後の章で、軽く半生を振り返るくらいのもの。トータルで高田純次が携わっているのは全体の4分の1くらいといった感じか・・・。それを適当とポジティブに取るか、時間の無駄と取るかは読者の価値観によるしかない・・・。
正直、人生を学ぶ本ではありません。生き方を学ぶような本ではありません。肩ひじ張らずに適当に眺めるくらいの本と思います。強いてあげれば、お笑いを目指す人には少しは実践的な役に立つのかな・・・とは思います。
『上達の技術 一直線にうまくなるための極意』 児玉光雄著 SBサイエンス・アイ新書
上達の技術 一直線にうまくなるための極意 (サイエンス・アイ新書) 児玉 光雄 ソフトバンククリエイティブ 2011-04-20 売り上げランキング : 17927
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本書は、主にスポーツの技術向上について解説したもの。
スポーツは、一つの動きだけではなく、身体の様々な動きや機能が連動して行われる。一般的には「運動神経」などと一括して言われたりするが、それほど単純ではない。もともと様々な作用が連携して営まれているのが私たちの身体である、スポーツともなると、それはとても複雑になる。どうせやるならうまくなりたい、うまくなりたいなら、運動や動作の連携がどういったものかを理解しておく必要がある。
本書では、脳と身体の連携のお話しからはじまり、上達することにこだわって解説しています。練習の仕方、記憶のメカニズムなど、単に運動だけではなく、身体の様々な機能についての解説と、それを効果的に向上していく方法論を提案しています。
かつては根性論で語ることが多かったスポーツ。気合いで乗り切れるとかはちょっと古い。また、感性や感覚だけで指導することが多かったスポーツですが、それでは同じ感性を共有するものしか理解されなく、指導者としては弱い。そこで本書のような、科学的アプローチを理解し、少しでもスポーツの向上が出来る練習が大事ではないでしょうか。
スポーツを愛する人、スポーツをしている人、選手を指導する人などはもちろんのこと、本書の内容はビジネスにも使えることが多いので、様々なことを向上したい方にお薦めの新書です。
【その他の関連新書】
『ネコを撮る』 岩合光昭 朝日新書33
ネコを撮る (朝日新書 33) 岩合 光昭 朝日新聞社 2007-03-13 売り上げランキング : 190121
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外を歩いていているとノラ猫に遭遇する。友達のうちに遊びに行くと、そこにネコがいる。ネコという動物を見ると、その動きやフォルムに魅了されてついついカメラを向けたくなる。しかしなかなかうまく撮れなかったりするのが残念です。
本書のタイトルは、『ネコを撮る』。
文字通り、ネコを撮るためのマニュアル・・・と言いたいところなのだけれど、しかし本書には、絞りがどうとか、ホワイトバランスがどうとか、そういうカメラの操作の仕方に関するお話しはありません。たぶんそれだと、ただのカメラの操作本になってしまうし、そういった本は趣味コーナーにあるカメラ本で十分だ。
そこでやはりここは、動物写真家であり、ネコ写真の第一人者である岩合さんの本であるからして、そんなカメラの使い方と言ったつまらないお話しではありません。ところどころ挿入されている写真の欄外に、望遠レンズを使うとか、広角レンズを使うとか、いくつかあるにはあるけれど、ほんのちょっとしかありません。あくまでメインは、ネコの写真を撮るための作法のようなもの。例えば朝早く出かけようとか、動きをよく観察しようとか、そうったアドバイス。しかしそのアドバイスも早々に切り上げて、各国のネコ事情や、ライオンやチーターと言ったネコ科の動物の特徴が述べられていき、“ネコ写真”からは遠くなっていく・・・。
普通であればここでタイトルと中身が違うではないかと文句の一つも言いたくなるのだが、しかしここは被写体がネコであるし、木訥とした岩合さんの語りでもあるし、そんな文句は一つも出てこないのが不思議。
岩合さんのネコに対するやさしい視点。そして、ネコの世界に溶け込んで写真を撮ることこそが、ネコ写真の秘訣であることを知る一冊。ところどころに挿入されるネコ写真もおもしろく、あっという間に読み切ることが出来ますので、頭を働かせずにのんびり活字に浸りたい時にもおすすめです。
『コレステロールに薬はいらない!』 浜六郎著 角川oneテーマ21
コレステロールに薬はいらない! (角川oneテーマ21) 浜 六郎 角川書店 2006-09 売り上げランキング : 303517
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健康管理のために、身体検査をしている人は少なくない。会社員は義務になっているので、当然のことと思ってやっている人も多い。そしてその評価がAとかBとかで、一喜一憂するのが常で、終わってしまったら再びビールをがぶ飲みなんて人もいるだろう。
ここまで一般化している検査であるが、それはどこまで有効なのだろう?中でも高血圧やコレステロールなどは検査値の基準が改定されることもしばしばで、それによって今まで大丈夫だった人が「病気」にされてしまうこともある。これは何とも理不尽なことである。そしてさらに疑問が生じるのは、本書のように、コレステロールが必ずしも悪者ではないという話があることだ。
コレステロールが悪なのかそうではないのか、そういった疑問があるのは、まだまだ未開なことが多い身体の問題だから許せるとしても、それを下げて健康を維持するためのはずの薬が、実は身体を壊しているかもしれないというのだ。もしそれが本当だとしたら、我々は何を信じて、誰を信じて良いのだろうか?
本書は、コレステロールの薬について詳しく検証したもの。様々な角度から検討しているので、とても参考になります。2006年が初版なので、その後の新たな治験などでこの本の内容も古くなる可能性がありますが、薬全般への考え方を変えるためにも読んでみてはいかがでしょうか。そして、薬に頼らない健康作りと言うことも、これを機会に考えてみてはいかがでしょうか。
【浜六郎氏の他の著書】
『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』 藻谷浩介著 角川oneテーマ21
デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21) 藻谷 浩介 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-06-10 売り上げランキング : 8050
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日本社会の高齢化が急速に進んでいると言われて久しい。介護の面など、その対応もなされてきてはいるが、実は問題は高齢化だけではなかった。日本社会の高齢化の問題は、同時に進む「生産年齢人口の減少」にある。
この「生産年齢人口の減少」という問題は、蓋を開ければもっともな内容ではあるが、指標としてはあまりに当然すぎて見過ごされてきたのか、『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)』が出版される前までは、このことは議論されてこなかったし、人々の視野にも入っていなかったのではないだろうか。
本書は、地域振興をテーマに活動をしてきた藻谷浩介氏だけに、地域の変化を如実に受けとめ、そこに生産年齢人口の減少という問題を感じ取ることが出来たのだろう。
2010年に発行された本なので、経済関連の本としては年を追う毎に賞味期限が来てもおかしくない。その点で、第1講から第3講までは、当時の経済状況と世に出ていた経済指標のズレを紹介する内容が主なので、読む価値は少ないかも知れません。しかしその後に続く内容は、その後の日本の状況を見事に言い当てているところも多く、この本が未だに説得力を持っていることが分ります。経済関連の本は、誇大に危機感を煽ったり、そのまた逆の楽観論になったり、両極端に振れるものが多く、また、たとえその時に話題に上がった本でも、その後やってきた現実によってその本の内容が完全に間違っていたことが分ってしまうものも多く、その点ですぐに賞味期限切れが来てしまう。しかし本書は、簡単な統計の数と、日本の各地で現れている事象を淡々と示して論証していくもので、しかも5年後の今日において正しさが証明されている。経済評論家や識者の中には、本書を叩く人もいるようだが、現実と本の内容が一致してきた今では、誰も異論はないだろう。
そして本書のいいところは、決して悲観論ではないところです。生産年齢人口の減少と言うことを前提に、そこから日本はどういった対策をすべきなのか、著者なりの解決策を明示しております。国家の方針だけではなく、個人がどう動くべきかという解決策も提示しています。
商売をされている方、経営方針を考える立場の方にとっては、多くの示唆を与えてくれると思います。「高齢化」と「生産年齢人口の減少」が、セットでこの日本の国を訪れると言うことはすでにいろいろなところで既出のことではありますが、その出発点である本書に目を通しておくことは、決して無駄ではないでしょう。
『凡人として生きるということ』 押井守 幻冬舎新書090
凡人として生きるということ (幻冬舎新書) 押井 守 幻冬舎 2008-07 売り上げランキング : 47080
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著者の押井守氏は、宮崎駿と並んぶ日本を代表するアニメーション作家の一人です。しかし押井氏と宮崎氏では、その作風は全く異なり、前者が陰とすれば、後者は陽。宮崎氏のアニメの中にも、残酷な人生の一面を垣間見るシーンがないわけではありませんが、陽ゆえの明りの強さによってそのあたりは一般的には分らないようになっているようで、この二人の太陽と月のような関係性は、そのまま興行的な面での一般向けかマニア向けかというところにもつながっているように思います。
本書は、どちらかというと陰的な印象の強い、しっかりと人間の弱さや暗さに目を向けていく押井氏の真情が吐露されています。気むずかしく、ひねくれているような、社会を斜めに読み取ろうとする著者の心情により、この社会の閉塞感をうまくあぶり出しています。その閉塞感のようなものは、誰もが気がついているのだけれど、それをあからさまに訴えることは反社会的なことでもあるので、なかなかそれを指摘する人はいない。不都合なこともあるのだろう。そして、誰もが潜在意識では気がついているのだけれど、大きな社会のシステムや、抑圧された歴史の中で、意識に上がらないように仕組まれ、押し黙るように馴らされてしまっているので、それを口に出して的確に表現する人は少ない。そういった潜在意識にねじ込められてしまった人間の陰の側面をあぶり出すには、宮崎駿のような一般受けのする“陽”よりも、“陰”の存在としての押井守氏こそ適任なのだろうと思います。
本書は出だしから「若さに価値などない」と、若者にガツンと訴えかける。そしてその価値のなさに目覚めることで、等身大の自分を見つめる端緒とすべきだと語りかける。これは逆に言えば、「若さに価値がある」と無責任に若者を煽ってきた大人への追求でもある。
本書は、このような押井守流の常識の見方を通し、現在的な生き方を見つけようとする試みです。そしてタイトルの通り、凡人であることを認識することによって、人との接点を産み出し、自由を手に入れる、そういった生き方のアドバイスでもあります。本書は大人のための本ではなく、10代、20代くらいの若者にこそ読んで欲しい新書です。
【押井守の他の新書・他の著書・作品】
『日本人の心情論理』 荒木博之著 講談社現代新書438
日本人の心のあり方は、時に特殊な言われ方をします。その辺りは、内田樹氏の『日本辺境論 (新潮新書)』などでも読むことができますが、そもそもそのような特殊性はどこからくるのでしょうか。
今回ご紹介するこの『日本人の心情論理 (1976年) (講談社現代新書)』は、民俗学、比較文化論という分野から日本人の心情を分析しようとしたもの。特に、歌などの文学を題材にしながら、そこから伝わる心情を採取していくところは、本書ならではでないでしょうか。
本書を読み始めて意外なのは、いきなり沖縄の伝承民謡からはじまるところ。日本人の心情を考察するのであれば、まずは松尾芭蕉や枕草子、徒然草といった王道から入るのが常道のように思うのですが、本書の始まりは沖縄伝承民謡。著者がキーワードとする「清浄美」「きよら」というものが、この沖縄伝承民謡に如実に現れているという。最初はその意外性が伝わりにくい感じもしたのですが、数ページ読み進めていくと、著者の視点の置き所が、意外ではなく、逆にいかにしっくりくるものであるということがわかってきて、心に響いてくるものがあります。
そもそもどうしてこれほどまでこの文脈が心に響いてくるのか?
その一つは、ここに取り上げられている沖縄伝承民謡が、とてもきれいだからなのでしょう。沖縄の青い空、青い海、そういった沖縄の自然が目の前に広がってくるような、そんな「きよら」な風景が、そのまま「きよら」を求める心情につながっていく。その心情を基にしながら、日本人の根底に広がる心情の分析が進んでいく。
以上のような心情論理の分析は、心理学者や社会学者のような人には見られない視点です。しかし、それは突拍子もない強引な論理展開ではなく、日本人の心情や自然に寄り添った、あたたかくも納得できるうつくしい解説となっています。
【荒木博之氏の他の著書】