『知の編集術 発想・思考を生み出す技法』 松岡正剛著 講談社現代新書
ネタバレになってしまうかもしれませんが、“世の中なんでも「編集」”というのが本書の基本コンセプト。
世の中を「編集」という言葉で輪切りにしていくと、実に様々な事柄が立体的に蘇ってくる、そんなことを伝えたい著者の強い思いの結晶。
インターネットが登場し、さらにスマートフォンが一般化したこの時代、老若男女全てがこの情報の海に翻弄されているといっても過言ではありません。この私の場末のしがないブログだって、インターネットの大海原の中では離れ小島でしかありませんが、ひょんなことからどこの誰かが漂着することもわるわけで、そうしたらそれは孤島ではない。決して誰も訪れることのない孤島ではなく、誰かがなにかを感じる小島なのだ。
こんな小島が至る所にあるのがインターネットである。
その大海原を整理し、編集しなくてはいけない。それはGoogleのような大きな企業の役目でもあるとともに、利用者である私たち自身も情報の海を編集しなくてはいけない。そうしないと、有効な情報を見逃してしまうし、不要な情報に振り回されたり、騙されたり・・・。
そう、今こそ「編集」が必要な時代なのだ。
本書が出版されたのは2000年。インターネットが普及しはじめた頃。
そんな時代にあって、まるで今の時代を予言したかのように、現代に必要なことを解いてくれています。
本書の中では、所々「練習問題」があります。何せ新書という限られたスペースですので、それはじっくりと考えさせるような感じではありませんが、それでも考えるヒントを与えるに十分であり、読むものに刺激を与えてくれます。
本書は、全てが編集というコンセプトでありますから、いわゆる編集者と呼ばれる方だけに向けたものではありません。編集とは、ある仕事に限ったことではなく、生きていくことそのものが編集であると言うことなので、お寿司屋さんであっても、八百屋さんであっても、鍼灸師であっても、営業の方であっても、主婦であっても、職業に関係なく全ての人に通じる、より良く生きるための手法。
自分の“生きる編集”技術が本書を通して目覚めはじめたとしたら、インターネットの力に振り回されることなく、もっともっと今よりも有意義な情報の活用が出来るのではないでしょうか。
もし今の時代、この本をアップデートしてくれたら、もっともっと有効な一冊になると思われますが、そんなことをしなくても、十分この時代へのヒントをくれる一冊であります。
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『コンプレックス』 河合隼雄著 岩波新書
本書の著者である河合隼雄氏は、ユング学派の心理学者として著名であり、一般の方への啓蒙書から、専門家向けの学術書まで、幅広く多彩な著書があります。
本書は、どちらかというと一般の方よりもより詳しい方に向けた書いたものであり、さらにタイトルの「コンプレックス」という極めて難解な問題に対し、あまり寄り道をせずに学術的に向き合った新書です。
ということで、最初のうちはちょっと取っつきにくい印象で、難解だなぁとこの本を手にしたことを後悔するかもしれません。
しかし、そこをひとまず我慢して読み進めてみてください。
すると、だんだんと河合隼雄氏のペースにはまり込んでいき、どんどんと興味が沸いてくること受け合いであります。
もちろん、全くの初心者が読み進めるにはハードルが高いかもしれません。ある程度ユング派の心理学がどのようなものなのかという概要や、心理学の用語を少し知っておかないと、本書の意図は中途半端にしか伝わらないかもしれません。
本書の内容は、タイトル通り「コンプレックス」について考察したものであります。コンプレックスとはどういったものなのか、心の様相、階層のようなものを最初に解説していき、フロイトの学説とユングの学説の違いなどが分かりやすく示してあります。
私がこの本を手にしたのは、自分の心の中に巣くう手強いコンプレックスを解消したいというがありました。もちろん本書はコンプレックスというものを学問的に考察するのが目的であり、コンプレックスを解消するためのハウツー本や自己啓発本ではないことは百も承知であります。
しかし、“将を射んとせばまず馬を射よ”というように、そもそもコンプレックスとはなんなのか、その定義から見てみようではないかというのがそもそもの興味のはじまりでありました。
ということで、本書の出だしのコンプレックスへの考察は、なるほどなるほどと思えるような、頭での理解を促すとても分りやすい解説が続いており、とりあえずそれはそれで満足いく内容であります。
その満足感を基礎にしながら読み進めていく、すると、何だか本書の感触がどんどん変わっていき、読んでいる私自身の心もまた変わっていくことが分りました。
それは、コンプレックスというものは、決して退けるべきものではなく、自分の成長のためには時に必要なことでもあり、コンプレックスを自覚するということは、自分自身の心の進歩でもあるという、コンプレックスをある意味必要悪とでもいうのか、直視できない辛いことではあるけれど、そこに向き合うことで心の成長に繋がるという肯定的なメッセージが込められているからだと思います。
最初は学術的な内容を期待して読み進めたものでありますが、いつしがたからか、本書から得られる感触は、自己を肯定するためのコンプレックスとの共同の仕方となり、読み終わった後、どことなく心が軽くなっているのが分ります。
本書は、学術的な内容と、自己啓発というものがうまく融合した希有な一冊ではないでしょうか。
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『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』 夏井睦 光文社新書
私たち日本人は、半ば常識的に米を食べている。ご飯信仰というのだろうか、とにかくごはんさえ食べていればいい、といった風潮さえあるような気がする。農業政策においても米の生産は象徴的に扱われたりするのもその表れではないだろうか。
そいった米を食べることが常識的な文化のなかで、『炭水化物が人類を滅ぼす』などというタイトルを付けることは、相当な勇気がいることではないだろうか。米農家の人々がこのタイトルを見たら、一目散に著者に抗議したくなるだろう。
しかし著者にとってそんな抗議は全く聞くに値するものではないのだろう。というのは、著者である夏井睦氏は、湿潤療法というこれまでの常識と真っ向対決する、新たな傷治療を提唱している方だけに、この新書もまた、炭水化物という常識への挑戦という著者の情熱の塊のようなものなのだから。
本書は、いわゆる「糖質制限」と呼ばれる食事法の本になります。
しかし、本書のなかで、糖質制限のノウハウを語った箇所はほんの少しに過ぎません。著者は熱血漢の方なので、さぞかし厳しい糖質制限を課せるのかと思いきや、意外にも緩く、自分のできる範囲でやりましょうと言った感じの記述しかありません。
では、本書は何のために書かれたのか?
それは、「糖質制限」の啓蒙と、「糖質制限」の科学的根拠について。
最初の数章は「糖質制限」の啓蒙について。しかし著者の性格を表しているのか、とても熱すぎるところがあり、掴みのための出だしの数章なのに、何だかお腹いっぱいになってしまって辟易しそうになる。
しかしそこを我慢して読み進めていくと、第4章からは著者の思考実験が始まっていく。思考実験とは、これまでの治験を組み立てていって、新たな仮説を提出する思考過程であるが、第4章は自然環境などについての思考実験であり、第5章からは生命科学についての思考実験であり、以下多岐に渡って著者の仮説が展開されていきます。ここからの展開は、この新書が糖質制限について書かれた本であることを忘れてしまうくらい濃密である。レビューアーの中には、それは著者の勝手な仮説に過ぎないという反論をしている人もいるが、「糖質制限」というキーワードからここまで広く議論が出来ることは評価に値することであるし、読んでいる方も、その一つ一つの議論の積み重ねにぐいぐいと引っ張られていくところがあります。
ということで、本書は「糖質制限」について書かれた本というよりは、「糖質制限」というキーワードを基に、様々な分野へと視野を広げる思考実験の場といった方がより適切であろう。
もし読者が、「糖質制限についてのハウツー本」を求めているのであれば、本書は全くお薦めには入らない。しかし、糖質制限にまつわる周辺科学や自然環境などを知りたいと思うならば、とても多くの収穫のある一冊になるのではないだろうか。
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炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学 (光文社新書)
- 作者: 夏井睦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/10/17
- メディア: 新書
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『子どもの宇宙』 河合隼雄著 岩波新書
著者の河合隼雄先生は、数ある心理学の流派の中でも、ユング派に所属し、その流派の第一人者であります。惜しまれながら2007年に他界されましたが、著書も多く、その著書の中には人間への温かい眼差しに根ざした言葉多く、励まされた方も多いのではないでしょうか。
本書は、タイトル通り、“子どもの宇宙”、つまり、子どもの心の中に拡がる広大な心象風景について、河合隼雄先生らしい視点でやさしく述べたもの。
本書の特徴は、難しい心理学の用語がほとんど出てこないこと。そして、子どもの宇宙を語る題材として、主に児童文学を取り上げているところ。私個人としては、児童文学にはほとんど馴染みがなく過ごしてきたので、正直本書を読み始めた当初は、それらを取り上げる意味があまりピンときませんでした。大人が子どもに向けて書いた本ということで、子どもの視点と言うよりも、大人の視点に成り下がっていないのか?という疑問もあり、中には実際に作者が幼少期に経験したことを、寓話的に盛り込んであるのだと思いますが、それにしても、そこに子どもの宇宙が再現されているのだろうか?という疑問がありました。
しかし読み進めていくうちに、それぞれの物語には子どもの宇宙が色濃く遺っており、そこから子どもの心象風景を理解する足がかりになると言うことが示されていて、とても興味深くなります。
一見何気なく読み過ごしてしまいそうな物語の中に、見逃してはいけない子どものサインを見つけ出す、そうったクライアントに寄り添った眼差しは、著者の河合隼雄先生ならではということなのでしょうか。
河合隼雄先生が所属するユング派は、夢の世界を重視したり、シンクロニシティ(意味のある偶然)を大事にしています。例えば、クライアントがガラッと変わる時のきっかけとして、夢で死を経験したり、何か突然動物が現れたりと、偶然なのか、必然なのか、振り返るとあれがきっかけになったという事件のようなことが起きたりするそうです。特にセラピーやカウンセリングを受けている最中にはそういったことが起きやすく、そしてそのきっかけによって、クライアントの状況が一変して改善していくということがあるそうで、そこに大きな深層心理の力が関わっているというのが、ユングの考え方の一つです。
本書にも実際のカウンセリングの実例が載っておりますが、そういったきっかけがやってくる時はとても感動的で、クライアントはもちろんのこと、カウンセラーも一つの成長を遂げると言うことで、とても興味深いものがあります。
実際我々の普通の生活の中でも、大なり小なり様々な事件のような不測の事態が起きるわけで、渦中の中にいると右も左も分らなくなって戸惑うこともありますが、こういった何かのきっかけになるというユング派の説を頭の片隅にでも置いておくとちょっと心が楽になるかもしれません。
本書は、上述したように、やさしい児童文学を例に挙げて話を進めているので、とても簡単に読むことができると思います。しかしその簡単な記述からは考えられないくらい、多くの示唆に富んだ内容となっています。そして、決して焦らない河合隼雄先生の“待つ”姿勢は、現在子育てをしている真っ最中の方にも、現在ちょっとした悩みを抱えている方にも、大いに参考になるところがあるのではないでしょうか。
子どもという時期は、心も身体も大きく変化を遂げる時期であります。その時期を誰もが通ってやがて大人になります。十人十色の幼少期を過ごして大人になるわけですが、完璧ではないにせよ、それぞれの子どもの物語にじっくりと付き合える大人でありたいと思うのであります。
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『水玉の履歴書』 草間彌生著 集英社新書 0692
表参道ヒルズがオープンする頃、たまたまプレオープンチケットがあったので、物見遊山で表参道ヒルズに行ったことがありました。表参道ヒルズのメインの建物の隣には、かつてそこに建っていた同潤会アパートを復元した棟があります。そこにはアートショップが入っているのですが、そこにも足を運んでみました。すると、部屋に入る前から何かモワッとした強いエネルギー体の存在を感じるのでありました。何だろう、何だろうと首を伸ばしてみてみると、何とそこには草間彌生氏本人がイスに座っておりました。正直その時わたしは草間彌生氏のことを全くといって良いほど知らなかったため、そのエネルギーに圧倒されて帰ってきた憶えがあり、今でもそのインパクトは身体に残っているように思います。
本書は、水玉模様のアートでお馴染みの草間彌生氏の著書。生まれた頃のお話しや、その後の活動について、印象的な言葉で草間彌生ワールドを語っています。
“草間彌生”という類い希なる才能がどう産まれたか、そんなところにももちろん興味があるわけですが、それよりも何よりも、未だに現役のアーティストとして活動をしているというところがすごいところであります。たいていの場合、アーティストには旬のようなものがあり、ある程度の所からは過去の作品で生きている人も少なくありません。しかし草間彌生氏は、未だに創作意欲をメラメラとたぎらせ、そして未だに前進し続けているのです。
水玉というと、どことなくガーリーな感じもしないでもありませんが、そこには草間彌生氏が到達した大きな哲学が籠もっており、繊細で、大胆で、再生であり、様々な意味合いを包括しながらその世界は拡がっていきます。
本書を読むと、草間彌生氏のパワーをひしひしと感じることができます。そしてそのパワーは、普通に生活する人々にとっても、大きな助言となるのではないかと思います。本書は、すぐに読めます。そして、すぐに元気になります。これほど即効性のある新書は、最近ではとても珍しいのではないでしょうか。
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『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起源に迫る』 島泰三著 中公新書
ア~イアイ、ア~イアイ、お猿さんだね~♪
ア~イアイ、ア~イアイ、し~っぽのな~がい~♪
という子供の唄を歌ったことがある方は多いかと思います。
しかし実際にアイアイってどんな猿なの?ってことになると、全くといっていいほど知らない方が多いのではないでしょうか?
本書の著者である島泰三氏は、霊長類研究家で、中でもアイアイに魅せられ続けているようで、アイアイ関連の本を出していたり、日本アイアイ・ファンドなるマダガスカルの森を守る団体を設立しています。蛇足ながら、著者は同じ中公新書から『安田講堂1968~1969』という新書を出しているのですが、霊長類とは全く違う内容なのに、どうしてなのかなぁと調べてみると、東大安田講堂事件のときに本郷学生隊長として参加し、なんと逮捕までされてしまったそうです。う~ん、読後この事実を知ると、この新書に籠められた熱い思い、そして新書とは思えないような内容の濃さは、著者の魂そのものなのだと思えてなりません。
本書は、まず著者の専門であるアイアイのお話しから入ります。アイアイは特殊な手をしているという解説から入り、そして歯の構成も普通の猿とは異なると言うことなのです。しかもアイアイは夜行性で、かつなかかな人目につくことがないため観測記録が少なく、その手をどうやって何を目的に使うのか、そして何を主食にしているのか、今もって謎が多いそうなのです。
そのアイアイの謎を追いかけるうちに、著者はある一つの仮説に辿り着きます。その仮説とは、「口と手連合仮説」というもの。端的に述べると、主食としている食べ物を確保するために手が進化し、それぞれの霊長類の手の特徴となったと言うもの。そしてそれは、各猿のニッチ(棲み分け)と関係しているという。この仮説を軸にしながら、チンパンジー、ゴリラ、さらにはニホンザルへと考察が進み、そして最終的には、人間がいかにして二足歩行を確立していったかという大きなテーマへと知的冒険が発展していきます。そしてどうして人間が直立二足歩行をするようになったかという仮説もまた、とてもスリリングなものとなっており、読者は驚くのではないかと思います。(このあたりの仮説をここで話すのはネタバレになり、読む前に知的好奇心を削ぐことにもなりますので、あえて伏せさせていただきます。)
本書は、霊長類のお話しです。しかもとても濃いお話しです。新書だからと手を抜かずに、様々な資料も合せて掲載しており、著者の熱い姿勢を感じさせる、学者としての誠意を強く感じる良書であります。霊長類に詳しい方や、霊長類の専門家の方にとってはとても有意義な一冊になるかと思います。
しかし、細かい霊長類の名前がたくさん出てきますので、正直そちらの方面に明るくない人が読み進めていくのは困難なところもあるかと思います。しかしそのあたりの細かいところは軽く読み飛ばしてでも、挫折しないで読了してほしいです。というのは、なるほど人類への進化というのはとてつもない長い歴史があり、そして生物の多様性が今後も必要であること、そして今でもこうしてマダガスカルの森の何処かでアイアイが健気に生きていることを知ると、意外にも今の自分の悩みがちっぽけに見えてくるかもしれないのであります。今では経済用語の一つとして使われているニッチという言葉も、もともとはこういった生物学の中で使われている言葉であることを知ると、もしかしたら経済人の人にとっても、自然を考える端緒になるのではと思うのであります。
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- 作者: 島泰三
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/07/11
- メディア: Kindle版
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『「大発見」の思考法』 山中伸弥・益川敏英著 文春新書
「大発見」の思考法 (文春新書) 山中 伸弥,益川 敏英 文藝春秋 2011-01-19 売り上げランキング : 28990
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ここ数年日本人のノーベル賞受賞者も着実に増えているように思います。これも全ては湯川秀樹氏の日本人初のノーベル賞受賞からはじまり、そこから積み重ねてきた基礎研究の成果なのかと思うと、「知」の向上が持つ意義を改めて考えてみたくなります。
本書は、iPS細胞でお馴染みの山中伸弥教授と、素粒子の研究者である益川敏英教授の対談です。研究の場からは遠い一般の人々にとって、益川敏英教授の素粒子のことはちんぷんかんぷんという方も多いと思います(私もそうですが・・・)。一方で、iPS細胞の方は、私たちの身体の話しであり、また、もしかしたら病気の解決方法につながるのではという期待もあるためか、直感的に分りやすく、興味も持ちやすいところがあります。その印象をそのまま反映したわけではないとは思いますが、本書の対談は、好奇心旺盛な益川敏英教授が山中伸弥教授をリードする形で進んでいきます。
山中伸弥教授、益川敏英教授の両者がどのように生まれ育ち、そして学んできたか。そういった生い立ちの話しもしながら、話題は深いところに進んでいきます。
タイトルには「大発見の思考法」とありますが、そこまで大げさな内容ではなく、そこに至るまでの人生プロセスや学問への姿勢、これからの学問の発展に向けてといった大局で観た研究姿勢といったところでしょうか。
惜しむらくは、両者のフリートークに任せるのではなく、科学に精通した人を司会にして、話しをうまく進行してもらえたらもう少し深いところまで入っていったのではないかと思います。かつて、湯川秀樹氏と梅棹忠夫氏による『人間にとって科学とはなにか (中公新書 132)』という名著がありましたが、こちらはもっと深くスリリングな内容になっていました。両者の生い立ちなどはこの際省き、より科学、思考、学問といったものに肉薄してもらえたら、タイトル近い内容になったのではと思います。続編のようなものがあったらいいなと思います。
すでにこういった研究者の世界に足を踏み入れている方にとっては、両者の対談は奮起を促してくれると思います。また、これから先どのような学問をしていこうか悩んでいる学生の方にも、いい思考のきっかけになるのではないでしょうか。
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