『生薬101の科学 薬理効果・採集法から家庭で使うコツまで』 清水岑夫著 講談社ブルーバックス
漢方薬は、植物や鉱石、動物など、自然界にある様々なものを使って薬効成分を発揮します。この漢方薬に使われるものを、生薬と言います。明の時代に李時珍がまとめた『本草綱目』などはその頂点とも言われるもので、今なお我々に多くの智慧と恩恵を与えてくれています。
本書は、その生薬の中でも、よく使われる101種類の植物を集めたもの。101というと多いように思われるかもしれませんが、マイナーなものを含めなくても、もっともっとたくさんのものがありますので、ほんとに厳選されたごく一部のものと考えたほうがいいかもしれません。新書という限られた紙面ですから、それも当然と言えば当然。むしろよくぞこの101に絞って解説してくれたと感謝。
著者は富山医科薬科大学・薬学部の教授をされていた方で、緑茶に含まれるポリサッカライドの血圧降下作用を発見されたすごい先生。本書の内容もとても誠実で、無駄がありません。
本書の構成は、101種類の生薬があいうえお順に並べられ、それぞれに【薬理効果と利用法】【特徴と生育地】【採集時期と調製法】といった3つの解説がなされており、そこに植物のイラストが付いています。漢方薬に使われる生薬ですが、本書にはいわゆる五味や帰経といった東洋医学らしい分類はなく、主に薬理学的な有効成分の紹介と解説で、所々に漢方薬の名前が付される程度です。
漢方薬を勉強している人にとっては、漢方薬的な解説が少ないので物足りないかもしれませんし、馴染みが持てないかもしれません。しかし、違う(薬理学的)角度から生薬を眺め、その効果の裏付けをしているという意味では参考になる面も多々あります。
正直、読んでいて面白いというものではありませんが、辞書的に横に置いておいて、何かの機会に調べておきたい一冊です。
【その他お薦めの漢方関連の新書】
生薬101の科学―薬理効果・採集法から家庭で使うコツまで (ブルーバックス)
- 作者: 清水岑夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/03
- メディア: 新書
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『森山大道 路上スナップのススメ』 森山大道・仲本剛 光文社新書
森山大道という写真家の写真を見ると、その強烈な画面の印象がバーンと飛び込んでくる。特別なカメラを使用するわけでもなく、しゃちほこばって三脚を構えるわけでもなく。
とにかく膨大な枚数を次から次へと撮っていく。
ぴんと目に引っかかったものを手当たり次第撮っていく。
自分の感性に引っかかるものを取り出しながらも、すぐそれを放り出してしまう。そうこうしているうちに、何気ない街の風景も、森山大道にかかれば永遠の記憶として刻み込まれる。
本書は、森山大道氏の撮り下ろしの写真を掲載し、その間に森山大道の語りが入っている。新書としては珍しく写真が多く、面白い構成かも知れません。
モノクロ、カラー写真、そのどれを取っても、そこには紛れもないいつかの誰かの記憶が封じ込まれています。
【その他お薦めの関連新書】
『察知力』 中村俊輔著 幻冬舎新書
中村俊輔選手というと、サッカーにあまり詳しくない私からすると、ちょっと線が弱い感じがしていました。直ぐに倒されてしまうような。でも、唯一無二のあのフリーキックは、サッカーに詳しくない私から見ても惚れ惚れしてしまいます。
さてその実像はどのようなものなのか・・・。
にわかサッカーファンが、ほぼ知らない人について、ただの印象でここでグダグダいうのは失礼である。
ということで、先ずは一冊読んでみよう。
“キング・カズ”こと、三浦知良選手の『やめないよ (新潮新書)」』が最高に勇気をもらえる一冊だったこともあり、そしてサッカーは人生を象徴するスポーツでもあるから、とにかく読んでみれば、何かを得られるであろう。
ということで、読んでみたわけですが、これがまたすごい良かった!
自分からあえて困難な問題を設け、そしてその問題に飛び込んでいく。
普通なら、壁がやってきたらとにかく萎えるし、とにかく逃げ出す。もしその壁を回避できるならば、そっちの道を進むのが私を含めた凡夫の人間だ。
それほど嫌な壁なのに、あえて飛び込む。
飛び込むばかりではなく場合によってはその平凡な道に飽き飽きして、自ら高い壁をつくってしまうのだ。
壁がやってきたら、避けるのではなく、むしろウェルカムで迎えていく。
三浦知良選手の本もそうだったが、一流というのは、困難なときにこそ力を発揮する存在なのだと分る。
そして自ら困難な道を選択する勇気がある人こそが、一流になる素質があるということなのだろう。
冒頭で私は中村俊輔選手のことを線が細いイメージと書きましたが、読中から全くそのイメージは逆転し、とにかく骨太の勇気の合う人なんだと認識がガラッと変わりました。私は中村俊輔選手のような華々しい活躍はできないけれど、自分は自分なりに、とにかく困難な道を選択しようと思うのであります。そして、いろいろなことを察知し、360度に視野を広げて物事を見ていこうと思うのであります。
【その他お薦めの新書】
『一瞬で体が柔らかくなる動的ストレッチ』 矢部亨著 青春新書インテリジェンス
ストレッチというと、グーッと引っ張って一定程度のところで止るものだという印象があります。
しかし本書が紹介しているストレッチは、“動的”なもの。
グーッと引っ張るだけではなく、動かしながら行うストレッチ。
その効果のほどはいかがなものでしょうか・・・。
【その他にお薦めの新書】
『跳び箱に手をつき骨折する子ども』 柴田輝明著 ポプラ親書
“ひ弱な子どもが増えている”という漠とした感じがあります。
電車に乗れば、姿勢をダラっとした子どもが席に座っていたり、座っているかと思えばスマホでゲームをしていたり。
しかしその一方で、卓球やバドミントン、陸上競技など、東京オリンピックが近いからなのか、以前は日本人が活躍できなかった競技にまで目覚ましい成績を出す選手が出るようになってきました。
一方ではひ弱、一方では国際舞台で活躍する若者。
いったいどちらが日本人の現代を象徴しているのでしょうか?
子どもの体力も、二極化しているのでしょうか?
本書にはセンセーショナルなタイトルが付いており、現代の子どもの体力事情を解説したもの。 そしてその解決策も少し明示してあります。
将来の日本のためにも、子どもの環境を考えてみたいきっかけになると思います。
【その他のお薦めの新書】
『医師のつくった「頭のよさ」テスト』 本田真美著 光文社新書
唐突ではありますが、私と嫁さんは、(ちゃんと確認したことはありませんが)人生の方向性や価値観に大きな違いがないであろうと、恐らく自分だけではなく嫁さんも感じていると思います。 自営業という決して安定はしていない私を選んだのですから、きっとそういったところにも理解があって、困ったことがあっても、じゃあどうしようかと同じ目標に向かって進んで行けているのではないかと、のろけではなく、しあわせなことだなと思うわけです。
しかしそんな共同体としての意識があるにもかかわらず、ときどきぶつかることがあります。ぶつかるというか、相手の言っていることがわからないと言いますか、同じ方向を向いているにもかかわらず、なんだか別の方へ向かっているような気分になるときがあるのです。自分の話したことがとっさに理解されず、時折イライラすることがあります。これは自分の一方的な感想ではなく、嫁さんの方も別の場面で同じようなことを感じることがあるようです。
例えば人生の方向性とは別のお話ですが、街を歩いていて、私はよく有名人を見かけます。「あ、あれプルシェンコじゃないか?」と私がいうと、「いや、ただの背の高い外人だよ、いるわけないじゃん。」と嫁さん。そこで検索してみると、どうやらプルシェンコはアイスショー出演のために日本に来日しているということがわかり、嫁さんは騒然として振り返っていく・・・。そんなことが何度もあります。
逆に私は、抽象的な概念を理解したりするのが苦手なところがある。数字も弱い方だと思う。だから、そういった話題になると私の方がうまく理解できなくて腹が立ったりする。私の方は、とりあえずやってみよう、やってみないとわからないから、という感じで遠回りをしたり、せっかく買ったのに部屋のサイズに合わなくて返品したりと言うことがあったりする。
という感じで、同じ価値観を共有しながらも、時々ぎくしゃくしたり、そのぎくしゃくが時々大きな隔たりになることは少なくありません。まだ夫婦なら修正も利きますし、やり直す時間はあります。しかしこれが友達とか、会社内とか言うと、「とことんあいつとは合わないなぁ」と不満が鬱積していきます。そして相手や自分自身を過小評価したり、自信を失ったりしていたたまれない思いに包まれたりもします。
人間には、得手不得手があり、それぞれの長所を伸ばすようにすれば一番いいわけですが、かといって自分の得手不得手はよくわからないことが多いですよね。また何をもってして得意、不得意とするのか、それもわかりません。
本書は、自分の認知のし方がどのようなタイプにあるのかを解説した本です。認知とは、自分の外界をどのように捉えようとしているかという傾向のこと。たとえば目の前の場面を写真のように捉えている人もいれば、言葉で捉えている人もいるわけです。写真のように捉えている人からすれば、言葉で捉えるなんて理解できないでしょうし、その逆もまたあり得るわけです。そういった認知のしかたにタイプがあるために、そこから理解の溝が生まれるところもある、だからこそ自分のタイプを理解し、相手のタイプも尊重する、そういった認知の傾向の違いを認め合うと、お互いを理解しやすくなるというのが本書の趣旨です。
後半は少し惰性になってしまっているところもありましたが、前半部はいろんな認知の違いを理解できます。そこが理解できると、不思議と相手への不満も少なくなり、逆に、自分にはない特徴を知ることもでき、さらにそれを活かしてあげようと思いたくなります。
本書は、家庭内のお互いの相互理解だけではなく、会社内で適材適所の人材活用にも利用できるのではないかと思います。また、こどもが大人に成長する過程で、様々な刺激を受けながら自分の能力を伸ばしていくことも理解でき、その手助けをしているのだという子育てのヒントも得ることができるように思います。
幅広い世代、幅広い職種、幅広い男女にお薦めの新書です。
【その他のお薦めの新書】
医師のつくった「頭のよさ」テスト 認知特性から見た6つのパターン (光文社新書)
- 作者: 本田真美
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2012/06/15
- メディア: 新書
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『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』 三井誠著 講談社現代新書
鍼灸師として人の身体を診ていると、ほんとうに身体というのは過不足ないものだと感心することが多く、いったい誰がこの「人」というものを作り上げたのだろうと思うことがあります。そして、その進化の道程に思いを馳せると、いろいろなことを想像してワクワクしてきます。
鍼灸師という自分の仕事にとっても、この人類の進化の歴史を解明できたら、もっと良い治療に結びつくのではないかと思ったりもして、それがためにさらにワクワクしながらこういった人類史の本を読んでしまいます。
本書は、主に人類がどのようにして人類という種に辿り着いてきたのかという道のりを中心に語られています。
こういった人類史の本でありがちなのは、ややこしいカタカナの人類の名前が次から次へと出てくること。もちろんそれは学問的に大切なことで、そういった細かい情報を求めている方もいるでしょうから、それはそれで必要なことかも知れません。しかし、私のような、直接人類史そのものを専攻にしていない者にとっては、それほど重要なものではなく、出来たらサラッと流していきたいところです。本書はその案配がとてもほどよく、一般の人が手にとっても無理なく読み進めることが出来るのがすごいところ。
本書によると、700万年前に、はじめて人類と呼べるような萌芽が産まれたそうなのですが、その後は紆余曲折、相当の時間をかけて進化の道を歩んでいき、そして現生人類となってからは、それまでとは打って変わって急激な(といっても地球の長い歴史から見ての尺度であって、何万年という年月が必要であったことはわけですが)進歩をとげていく。そして日本でいえば、縄文時代のような、痕跡が残っている、手に届きそうな時代になったという・・・その変化の仕方がまた読んでいて楽しいです。
700万年という長い年月を、この新書という1冊にまとめるというのは至難の業であると思いますが、単なる形態の変化だけではなく、精神文化の面からの進化の足跡もある程度はカバーしているのも面白く読むことが出来ます。
そして、日本人のルーツについても一つの章を作り、さらに、人類史が今現在どういった手法を用いて人類進化の謎を解き明かそうとしているのかといった技術的なお話しもあって、それはそれでまた興味深く読むことが出来ます。
2005年に刊行された本なので、その後の新しい発見や発掘によって、本書の内容が変わってきている可能性もありますが、それはそれとしても、これほどまでにコンパクトに、そしてときにユーモアを交えて読むことが出来るのは貴重な一冊ではないかと思います。人類の進化、人類史に興味のある方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
【その他のお薦め新書】
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人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」 (講談社現代新書)
- 作者: 三井誠
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/01/22
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