『子供の「脳」は肌にある』 山口創著 光文社新書
鍼灸治療には四診法という診察方法があります。これは、望診(外から目で見て察する診察)、聞診(匂いや声などから察する診察)、問診(患者さんに病情などを直接問いかける診察)、切診(脈診、腹診、尺膚診など)の4つの診察方法をまとめた言い方です。どれもが総合的な診察には欠くことが出来ないものなのですが、中でも重要視されるのは、切診かもしれません。
脈診、腹診など、施術者は患者様の身体に直接触れて診察を進めていきます。
また、鍼灸治療をするときには、術者はやはり“手”を使って経穴(ツボ)を探していきます。そして鍼をするとき、お灸をするときは、もちろん直接患者様の肌に触れて治療をしていきます。
このように、鍼灸治療にとって“手”というものはとても大切なものになります。施術者にとっての“手”ばかりではなく、手は、施術者と患者様を結ぶ接点として、患者様もまた、手から伝わる感触によって施術者への信頼感などを判断しています。
そして手が触れる“肌”というものは、東洋医学的に見ますと、最初に外からの邪気を防御するところでもあります。風邪などを例に取るとわかりやすいかと思いますが、風邪をひきやすい方の肌の多くは、かさかさとしたところがあり、風邪が侵入しやすかったりします。皮膚は肺とつながり、衛気の様子をが出るところでもあり、肌の色艶は栄養状態など身体全般の傾向を示しています。
身体の表面を覆っている肌は、とても重要な器官です。本書では子供の成長にとっての肌について述べたもので、成長期におけるスキンシップの大切さを教えてくれます。鍼灸医療の小児鍼の効果の原点も、このスキンシップにあるのではないでしょうか。鍼灸師の他に、手に関わる仕事をしている方、子育て中(子育てを始める)の方、子供と接する仕事の方などに読んでいただきたい一冊です。
【その他の類似新書】
『サッカーW杯英雄たちの言葉』 中谷綾子アレキサンダー 集英社新書
本書が発行されたのは2006年。故に、その頃に脂ののりきったサッカー選手が取り上げられているので、年月が経てば経つほど、本書の賞味期限が切れていくのは否めない。しかし、それを差し引いたとしても、本書には一流選手の言葉、生き様がたくさん込められている。そこには生きるヒントになる言葉も多い。そもそもサッカーという競技が、人生を内包しているところがあるからでもある。
本書に出てくる選手が、ちらほらと指導者としても名前が挙がるようになってきた。だからこそ、このタイミングで本書をもう一度読む価値は出てくるのではないだろうか。
【その他の類似新書】
『「大発見」の思考法 iPS細胞VS素粒子』 山中伸弥・益川敏英 文春新書
本書は、iPS細胞の山中伸弥先生と、素粒子の益川敏英先生という二人のノーベル賞受賞者の対談。
最近ではノーベル賞を受賞する日本人もコンスタントに出るようになりましたが、それでもやはり世界で最も権威のある賞だけに、素直にすごいなぁとそれだけで尊敬の対象になります。
その受賞者の知性にはとても興味があるものです。
とても自分がノーベル賞を取ろうとかなんて思いませんが、それでも、頭の中はどうなっているのだろうと気になるものです。
本書は、二人のノーベル賞受賞者が、忌憚なく打ち解け合って話をするというもの。難しい話をするのではなく、お互いがお互いを知るために興味の赴くままに聴いていくというもの。特に、好奇心の旺盛な益川敏英先生が山中伸弥先生に質問をしていくといった傾向が強いですが、素粒子という難しい話をされるよりも、一般読者このくらいがちょうど良い。
さてさて、二人の対談から学ぶものはあるでしょうか。
【その他の類似新書】
「大発見」の思考法 iPS細胞 vs. 素粒子 (文春新書)
- 作者: 山中伸弥,益川敏英
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/11/02
- メディア: Kindle版
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『宮本式・ワンランク上のサッカー観戦術』 宮本恒靖著 朝日新書
今となってはだいぶ前の話でありますが、サッカー日本代表が一段レベルアップした時代は、中田英寿や小野伸二などの黄金世代を擁したトルシエ・ジャパン。日韓開催という地の利はあったとは言え、初めて本戦に出場した実績や、ここから日本人選手が海外で活躍するようになったことを考えると、やはりその存在は日本サッカー界にとっても大きな転換期だったのではないでしょうか。
そのトルシエ・ジャパンの頭脳とも称されたのが、本書の宮本恒靖氏。
トルシエ・ジャパンの戦術で特徴的だったのは、フラット・スリーと呼ばれる守備体系。オフサイドトラップを巧みに動かしながらの守備は、いろいろな批判がありながらもそれなりに機能していました。
本書は、そのフラット・スリーという守備の要であった宮本恒靖氏。だからこそ磨かれた戦術眼であったりもするのではないでしょうか。
本書が出版されたのは2012年なので、移り変わりが激しく、4年に一度のワールドカップからすると、事例は古いものになっているのは否めません。しかしそれを度外視にしたとしても、その内容はサッカー観戦力に役立ちます。ディフェンダーから見た戦術論という面からも、新たなサッカー観戦術を身につけることができると思います。
【その他のお薦めサッカー関連新書】
『生薬101の科学 薬理効果・採集法から家庭で使うコツまで』 清水岑夫著 講談社ブルーバックス
漢方薬は、植物や鉱石、動物など、自然界にある様々なものを使って薬効成分を発揮します。この漢方薬に使われるものを、生薬と言います。明の時代に李時珍がまとめた『本草綱目』などはその頂点とも言われるもので、今なお我々に多くの智慧と恩恵を与えてくれています。
本書は、その生薬の中でも、よく使われる101種類の植物を集めたもの。101というと多いように思われるかもしれませんが、マイナーなものを含めなくても、もっともっとたくさんのものがありますので、ほんとに厳選されたごく一部のものと考えたほうがいいかもしれません。新書という限られた紙面ですから、それも当然と言えば当然。むしろよくぞこの101に絞って解説してくれたと感謝。
著者は富山医科薬科大学・薬学部の教授をされていた方で、緑茶に含まれるポリサッカライドの血圧降下作用を発見されたすごい先生。本書の内容もとても誠実で、無駄がありません。
本書の構成は、101種類の生薬があいうえお順に並べられ、それぞれに【薬理効果と利用法】【特徴と生育地】【採集時期と調製法】といった3つの解説がなされており、そこに植物のイラストが付いています。漢方薬に使われる生薬ですが、本書にはいわゆる五味や帰経といった東洋医学らしい分類はなく、主に薬理学的な有効成分の紹介と解説で、所々に漢方薬の名前が付される程度です。
漢方薬を勉強している人にとっては、漢方薬的な解説が少ないので物足りないかもしれませんし、馴染みが持てないかもしれません。しかし、違う(薬理学的)角度から生薬を眺め、その効果の裏付けをしているという意味では参考になる面も多々あります。
正直、読んでいて面白いというものではありませんが、辞書的に横に置いておいて、何かの機会に調べておきたい一冊です。
【その他お薦めの漢方関連の新書】
生薬101の科学―薬理効果・採集法から家庭で使うコツまで (ブルーバックス)
- 作者: 清水岑夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/03
- メディア: 新書
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『森山大道 路上スナップのススメ』 森山大道・仲本剛 光文社新書
森山大道という写真家の写真を見ると、その強烈な画面の印象がバーンと飛び込んでくる。特別なカメラを使用するわけでもなく、しゃちほこばって三脚を構えるわけでもなく。
とにかく膨大な枚数を次から次へと撮っていく。
ぴんと目に引っかかったものを手当たり次第撮っていく。
自分の感性に引っかかるものを取り出しながらも、すぐそれを放り出してしまう。そうこうしているうちに、何気ない街の風景も、森山大道にかかれば永遠の記憶として刻み込まれる。
本書は、森山大道氏の撮り下ろしの写真を掲載し、その間に森山大道の語りが入っている。新書としては珍しく写真が多く、面白い構成かも知れません。
モノクロ、カラー写真、そのどれを取っても、そこには紛れもないいつかの誰かの記憶が封じ込まれています。
【その他お薦めの関連新書】
『察知力』 中村俊輔著 幻冬舎新書
中村俊輔選手というと、サッカーにあまり詳しくない私からすると、ちょっと線が弱い感じがしていました。直ぐに倒されてしまうような。でも、唯一無二のあのフリーキックは、サッカーに詳しくない私から見ても惚れ惚れしてしまいます。
さてその実像はどのようなものなのか・・・。
にわかサッカーファンが、ほぼ知らない人について、ただの印象でここでグダグダいうのは失礼である。
ということで、先ずは一冊読んでみよう。
“キング・カズ”こと、三浦知良選手の『やめないよ (新潮新書)」』が最高に勇気をもらえる一冊だったこともあり、そしてサッカーは人生を象徴するスポーツでもあるから、とにかく読んでみれば、何かを得られるであろう。
ということで、読んでみたわけですが、これがまたすごい良かった!
自分からあえて困難な問題を設け、そしてその問題に飛び込んでいく。
普通なら、壁がやってきたらとにかく萎えるし、とにかく逃げ出す。もしその壁を回避できるならば、そっちの道を進むのが私を含めた凡夫の人間だ。
それほど嫌な壁なのに、あえて飛び込む。
飛び込むばかりではなく場合によってはその平凡な道に飽き飽きして、自ら高い壁をつくってしまうのだ。
壁がやってきたら、避けるのではなく、むしろウェルカムで迎えていく。
三浦知良選手の本もそうだったが、一流というのは、困難なときにこそ力を発揮する存在なのだと分る。
そして自ら困難な道を選択する勇気がある人こそが、一流になる素質があるということなのだろう。
冒頭で私は中村俊輔選手のことを線が細いイメージと書きましたが、読中から全くそのイメージは逆転し、とにかく骨太の勇気の合う人なんだと認識がガラッと変わりました。私は中村俊輔選手のような華々しい活躍はできないけれど、自分は自分なりに、とにかく困難な道を選択しようと思うのであります。そして、いろいろなことを察知し、360度に視野を広げて物事を見ていこうと思うのであります。
【その他お薦めの新書】