『脳をその気にさせる錯覚の心理学』 竹内龍人著 角川SSC新書
なぜ、それを好きになるのか?脳をその気にさせる錯覚の心理学 (角川SSC新書) 竹内 龍人 KADOKAWA/角川マガジンズ 2014-03-10 売り上げランキング : 120565
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SMAPの中居正広氏が司会をしている深夜番組、『中居正広のミになる図書館』をたまたまお風呂上がりに見ていたら、目の錯覚の話をしていました。ある絵をしばらくずっと見た後に、色が変わった残像が見えるというもので、それはけっこう意外な驚きでありました。大したことないだろうと思いながら実際にやってみると、すごく色が変わって、こんなにも錯覚って凄いものかとびっくりしたわけです。そして、こういったことを研究している人はどんな人なのだろうと興味を持ち、その時の講師の名前をメモして検索してみたところ、本書が出てきました。
著者の竹内龍人氏は、現在日本女子大学人間社会学部心理学科教授。NTTを経て現職に就いたそうですが、NTTでは錯覚Webサイト『錯視と錯聴を体験!イリュージョンフォーラム』の企画製作に携わるなど、脳の錯覚を得意とする研究者と言うことです。
テレビに出演している竹内氏はとても親しみのある感じでしたが、本書もその印象そのままで、とてもやさしく、親近感があります。難しいことを分かりやすく、しかも嫌味がなく説明してくれるところにまず好感触。こういうところ、けっこう大切ですよね。たとえ話も世代を反映したものが多く、しかもそれがアイドルの話だったりというのがお高くなくていい感じです。
本書の良いところは、あまり欲張っていないところ。そのキーワードは、「少しすきになる」というもの。心理学をビジネスなどに応用したお話しの中には、自己催眠をして億万長者に!といった、とてもハードルの高い上げ上げなものも多い。しかし本書の基調は、「少しだけ」という控え目なもの。その控え目な姿勢だけ見ると、価値のなさそうな本のように思えるが、この「少しだけ」というのが実は大きな効果を発揮するというのだから面白い。
最近よく言われるのは、劇的な出会い方をしたカップルほど別れやすいと言うもの。これは、最初の強烈な好き体験というのはそれほど長く続くものではなく、また、最初の好き体験を超えるものを常に求めてしがいがちになるため、なかなか平凡な日常を乗り越えられないというもの。そのような失敗をするよりは、少しすきになるくらいがちょうど良く、その方が結果として長く好きでいられて、より多くの楽しい時間を過ごすことが出来るだろう、というのが本書の意図であります。
実はこれは何も男女の間柄にだけ限ったものではなく、ビジネスなどにも応用できるものでもあります。ブームのような猛烈な渦を作るのも一つの方法論かもしれませんが、そういったものは結局は長続きせず、そのビジネス自体も数年後にはなくなっている・・・ということも少なくありません。そうなるよりは、地道だけど着実な“少し好き”くらいを狙った方のがいいのかもしれません。特に自営業や中小企業のような経営にとっては、下手なブームで一攫千金を狙うよりも、本書の意図の方が合っているのではと思います。
「錯覚」というと、真っ先にだまし絵、トリックアートのようなものを思い浮かべますが、本書を読んでいると、実はそういった視覚を遊ばせる限定的なものではなく、もっともっと応用範囲が広いことに気がつきます。そしてそれは、人生そのものを豊かにするポテンシャルを秘めているものだと言うことを教えてくれます。語りはやさしい本ですが、その内容はとても深いものがあります。心理学を全く知らない方でも読み進められるので、普段の何気ない行動の心理を知りたい方にもお薦めです。
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