『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起源に迫る』 島泰三著 中公新書
ア~イアイ、ア~イアイ、お猿さんだね~♪
ア~イアイ、ア~イアイ、し~っぽのな~がい~♪
という子供の唄を歌ったことがある方は多いかと思います。
しかし実際にアイアイってどんな猿なの?ってことになると、全くといっていいほど知らない方が多いのではないでしょうか?
本書の著者である島泰三氏は、霊長類研究家で、中でもアイアイに魅せられ続けているようで、アイアイ関連の本を出していたり、日本アイアイ・ファンドなるマダガスカルの森を守る団体を設立しています。蛇足ながら、著者は同じ中公新書から『安田講堂1968~1969』という新書を出しているのですが、霊長類とは全く違う内容なのに、どうしてなのかなぁと調べてみると、東大安田講堂事件のときに本郷学生隊長として参加し、なんと逮捕までされてしまったそうです。う~ん、読後この事実を知ると、この新書に籠められた熱い思い、そして新書とは思えないような内容の濃さは、著者の魂そのものなのだと思えてなりません。
本書は、まず著者の専門であるアイアイのお話しから入ります。アイアイは特殊な手をしているという解説から入り、そして歯の構成も普通の猿とは異なると言うことなのです。しかもアイアイは夜行性で、かつなかかな人目につくことがないため観測記録が少なく、その手をどうやって何を目的に使うのか、そして何を主食にしているのか、今もって謎が多いそうなのです。
そのアイアイの謎を追いかけるうちに、著者はある一つの仮説に辿り着きます。その仮説とは、「口と手連合仮説」というもの。端的に述べると、主食としている食べ物を確保するために手が進化し、それぞれの霊長類の手の特徴となったと言うもの。そしてそれは、各猿のニッチ(棲み分け)と関係しているという。この仮説を軸にしながら、チンパンジー、ゴリラ、さらにはニホンザルへと考察が進み、そして最終的には、人間がいかにして二足歩行を確立していったかという大きなテーマへと知的冒険が発展していきます。そしてどうして人間が直立二足歩行をするようになったかという仮説もまた、とてもスリリングなものとなっており、読者は驚くのではないかと思います。(このあたりの仮説をここで話すのはネタバレになり、読む前に知的好奇心を削ぐことにもなりますので、あえて伏せさせていただきます。)
本書は、霊長類のお話しです。しかもとても濃いお話しです。新書だからと手を抜かずに、様々な資料も合せて掲載しており、著者の熱い姿勢を感じさせる、学者としての誠意を強く感じる良書であります。霊長類に詳しい方や、霊長類の専門家の方にとってはとても有意義な一冊になるかと思います。
しかし、細かい霊長類の名前がたくさん出てきますので、正直そちらの方面に明るくない人が読み進めていくのは困難なところもあるかと思います。しかしそのあたりの細かいところは軽く読み飛ばしてでも、挫折しないで読了してほしいです。というのは、なるほど人類への進化というのはとてつもない長い歴史があり、そして生物の多様性が今後も必要であること、そして今でもこうしてマダガスカルの森の何処かでアイアイが健気に生きていることを知ると、意外にも今の自分の悩みがちっぽけに見えてくるかもしれないのであります。今では経済用語の一つとして使われているニッチという言葉も、もともとはこういった生物学の中で使われている言葉であることを知ると、もしかしたら経済人の人にとっても、自然を考える端緒になるのではと思うのであります。
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- 作者: 島泰三
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/07/11
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