『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』 夏井睦 光文社新書
私たち日本人は、半ば常識的に米を食べている。ご飯信仰というのだろうか、とにかくごはんさえ食べていればいい、といった風潮さえあるような気がする。農業政策においても米の生産は象徴的に扱われたりするのもその表れではないだろうか。
そいった米を食べることが常識的な文化のなかで、『炭水化物が人類を滅ぼす』などというタイトルを付けることは、相当な勇気がいることではないだろうか。米農家の人々がこのタイトルを見たら、一目散に著者に抗議したくなるだろう。
しかし著者にとってそんな抗議は全く聞くに値するものではないのだろう。というのは、著者である夏井睦氏は、湿潤療法というこれまでの常識と真っ向対決する、新たな傷治療を提唱している方だけに、この新書もまた、炭水化物という常識への挑戦という著者の情熱の塊のようなものなのだから。
本書は、いわゆる「糖質制限」と呼ばれる食事法の本になります。
しかし、本書のなかで、糖質制限のノウハウを語った箇所はほんの少しに過ぎません。著者は熱血漢の方なので、さぞかし厳しい糖質制限を課せるのかと思いきや、意外にも緩く、自分のできる範囲でやりましょうと言った感じの記述しかありません。
では、本書は何のために書かれたのか?
それは、「糖質制限」の啓蒙と、「糖質制限」の科学的根拠について。
最初の数章は「糖質制限」の啓蒙について。しかし著者の性格を表しているのか、とても熱すぎるところがあり、掴みのための出だしの数章なのに、何だかお腹いっぱいになってしまって辟易しそうになる。
しかしそこを我慢して読み進めていくと、第4章からは著者の思考実験が始まっていく。思考実験とは、これまでの治験を組み立てていって、新たな仮説を提出する思考過程であるが、第4章は自然環境などについての思考実験であり、第5章からは生命科学についての思考実験であり、以下多岐に渡って著者の仮説が展開されていきます。ここからの展開は、この新書が糖質制限について書かれた本であることを忘れてしまうくらい濃密である。レビューアーの中には、それは著者の勝手な仮説に過ぎないという反論をしている人もいるが、「糖質制限」というキーワードからここまで広く議論が出来ることは評価に値することであるし、読んでいる方も、その一つ一つの議論の積み重ねにぐいぐいと引っ張られていくところがあります。
ということで、本書は「糖質制限」について書かれた本というよりは、「糖質制限」というキーワードを基に、様々な分野へと視野を広げる思考実験の場といった方がより適切であろう。
もし読者が、「糖質制限についてのハウツー本」を求めているのであれば、本書は全くお薦めには入らない。しかし、糖質制限にまつわる周辺科学や自然環境などを知りたいと思うならば、とても多くの収穫のある一冊になるのではないだろうか。
【その他の糖質制限についての新書】
【キーワード検索】
「夏井睦」 「糖質制限」 「ケトン体」 「江部康二」 「小麦粉」
炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学 (光文社新書)
- 作者: 夏井睦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/10/17
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (25件) を見る