『努力しない生き方』 桜井章一 集英社新書
努力しない生き方 (集英社新書) 桜井 章一 集英社 2010-03 売り上げランキング : 21422
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著者の桜井章一氏は、プロの麻雀打ちという勝負師として、20年間無敗というとんでもない記録を持った“雀鬼”。
麻雀などというと、遊びやギャンブルの印象が強く、ましてやそれを職業として生きていこうというのは決して誉められたものではない。そういう意味では、本書は万人受けするものではなく、既に著者の職歴からして拒否反応を示す人もいるだろう。
しかし、麻雀も野球やスポーツと同じような勝負の世界のものと視点を変え、そして明日の保証もない厳しい勝負の世界ということを考えると、そこで生きてきた人の言葉は、一朝に値するものがある。ましてや、20年間無敗という記録は尋常ではなく、単なる運やテクニックだけで成し遂げられることではない。やはりそこには、プロならではの生き方、生きる智慧というものがあるのだろう。
本書の中で桜井氏は、タイトル通り「努力しない」ことを推奨する。それは一見すると、アウトローらしいひねくれた物言いに聞えるかもしれない。しかし著者が言いたいのは、努力をするという感覚をしながら努力をするのではなく、その道が好きだったり、その道が楽しかったり、自然と工夫しながら生きる術を身につける、そういった力の抜けた探求の仕方のことである。本書を浅く読んでしまうと、あ、努力しなくても良いんだと思ってしまうかもしれないが、そうではない。力を抜いて、できるだけ自然体で持続する、そういった努力を超えた柔軟な生き方のことである。努力を超えた努力とは、ある意味、幸田露伴の『努力論』にも通じるところがあるのではないだろうか。
個人的には、若いうちはがむしゃらに努力することも大切だと思う。それができるのが、若い人の特権だからだ。しかしそれだけでは必ず壁にぶつかるものだ。その壁にぶつかったときこそ、桜井章一氏の『努力しない生き方』が必要となり、読んでいてこころに広がる自分への肯定感が生まれるのではないだろうか。また、とことん努力をした者だからこそ、その後に力を抜くことの大切が分ることもある。
今現在壁にぶつかって、にっちもさっちもいかない方、努力をしてきたのに報われないと思っている方に、一読お薦めします。今までしてきた努力は水の泡ではなく、必ず何処かで報われる、それは力を抜いて、自然体になった瞬間なのかもしれない。
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