『日本人の心情論理』 荒木博之著 講談社現代新書438
日本人の心のあり方は、時に特殊な言われ方をします。その辺りは、内田樹氏の『日本辺境論 (新潮新書)』などでも読むことができますが、そもそもそのような特殊性はどこからくるのでしょうか。
今回ご紹介するこの『日本人の心情論理 (1976年) (講談社現代新書)』は、民俗学、比較文化論という分野から日本人の心情を分析しようとしたもの。特に、歌などの文学を題材にしながら、そこから伝わる心情を採取していくところは、本書ならではでないでしょうか。
本書を読み始めて意外なのは、いきなり沖縄の伝承民謡からはじまるところ。日本人の心情を考察するのであれば、まずは松尾芭蕉や枕草子、徒然草といった王道から入るのが常道のように思うのですが、本書の始まりは沖縄伝承民謡。著者がキーワードとする「清浄美」「きよら」というものが、この沖縄伝承民謡に如実に現れているという。最初はその意外性が伝わりにくい感じもしたのですが、数ページ読み進めていくと、著者の視点の置き所が、意外ではなく、逆にいかにしっくりくるものであるということがわかってきて、心に響いてくるものがあります。
そもそもどうしてこれほどまでこの文脈が心に響いてくるのか?
その一つは、ここに取り上げられている沖縄伝承民謡が、とてもきれいだからなのでしょう。沖縄の青い空、青い海、そういった沖縄の自然が目の前に広がってくるような、そんな「きよら」な風景が、そのまま「きよら」を求める心情につながっていく。その心情を基にしながら、日本人の根底に広がる心情の分析が進んでいく。
以上のような心情論理の分析は、心理学者や社会学者のような人には見られない視点です。しかし、それは突拍子もない強引な論理展開ではなく、日本人の心情や自然に寄り添った、あたたかくも納得できるうつくしい解説となっています。
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