『凡人として生きるということ』 押井守 幻冬舎新書090
凡人として生きるということ (幻冬舎新書) 押井 守 幻冬舎 2008-07 売り上げランキング : 47080
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著者の押井守氏は、宮崎駿と並んぶ日本を代表するアニメーション作家の一人です。しかし押井氏と宮崎氏では、その作風は全く異なり、前者が陰とすれば、後者は陽。宮崎氏のアニメの中にも、残酷な人生の一面を垣間見るシーンがないわけではありませんが、陽ゆえの明りの強さによってそのあたりは一般的には分らないようになっているようで、この二人の太陽と月のような関係性は、そのまま興行的な面での一般向けかマニア向けかというところにもつながっているように思います。
本書は、どちらかというと陰的な印象の強い、しっかりと人間の弱さや暗さに目を向けていく押井氏の真情が吐露されています。気むずかしく、ひねくれているような、社会を斜めに読み取ろうとする著者の心情により、この社会の閉塞感をうまくあぶり出しています。その閉塞感のようなものは、誰もが気がついているのだけれど、それをあからさまに訴えることは反社会的なことでもあるので、なかなかそれを指摘する人はいない。不都合なこともあるのだろう。そして、誰もが潜在意識では気がついているのだけれど、大きな社会のシステムや、抑圧された歴史の中で、意識に上がらないように仕組まれ、押し黙るように馴らされてしまっているので、それを口に出して的確に表現する人は少ない。そういった潜在意識にねじ込められてしまった人間の陰の側面をあぶり出すには、宮崎駿のような一般受けのする“陽”よりも、“陰”の存在としての押井守氏こそ適任なのだろうと思います。
本書は出だしから「若さに価値などない」と、若者にガツンと訴えかける。そしてその価値のなさに目覚めることで、等身大の自分を見つめる端緒とすべきだと語りかける。これは逆に言えば、「若さに価値がある」と無責任に若者を煽ってきた大人への追求でもある。
本書は、このような押井守流の常識の見方を通し、現在的な生き方を見つけようとする試みです。そしてタイトルの通り、凡人であることを認識することによって、人との接点を産み出し、自由を手に入れる、そういった生き方のアドバイスでもあります。本書は大人のための本ではなく、10代、20代くらいの若者にこそ読んで欲しい新書です。
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