『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』 藻谷浩介著 角川oneテーマ21
デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21) 藻谷 浩介 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-06-10 売り上げランキング : 8050
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日本社会の高齢化が急速に進んでいると言われて久しい。介護の面など、その対応もなされてきてはいるが、実は問題は高齢化だけではなかった。日本社会の高齢化の問題は、同時に進む「生産年齢人口の減少」にある。
この「生産年齢人口の減少」という問題は、蓋を開ければもっともな内容ではあるが、指標としてはあまりに当然すぎて見過ごされてきたのか、『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)』が出版される前までは、このことは議論されてこなかったし、人々の視野にも入っていなかったのではないだろうか。
本書は、地域振興をテーマに活動をしてきた藻谷浩介氏だけに、地域の変化を如実に受けとめ、そこに生産年齢人口の減少という問題を感じ取ることが出来たのだろう。
2010年に発行された本なので、経済関連の本としては年を追う毎に賞味期限が来てもおかしくない。その点で、第1講から第3講までは、当時の経済状況と世に出ていた経済指標のズレを紹介する内容が主なので、読む価値は少ないかも知れません。しかしその後に続く内容は、その後の日本の状況を見事に言い当てているところも多く、この本が未だに説得力を持っていることが分ります。経済関連の本は、誇大に危機感を煽ったり、そのまた逆の楽観論になったり、両極端に振れるものが多く、また、たとえその時に話題に上がった本でも、その後やってきた現実によってその本の内容が完全に間違っていたことが分ってしまうものも多く、その点ですぐに賞味期限切れが来てしまう。しかし本書は、簡単な統計の数と、日本の各地で現れている事象を淡々と示して論証していくもので、しかも5年後の今日において正しさが証明されている。経済評論家や識者の中には、本書を叩く人もいるようだが、現実と本の内容が一致してきた今では、誰も異論はないだろう。
そして本書のいいところは、決して悲観論ではないところです。生産年齢人口の減少と言うことを前提に、そこから日本はどういった対策をすべきなのか、著者なりの解決策を明示しております。国家の方針だけではなく、個人がどう動くべきかという解決策も提示しています。
商売をされている方、経営方針を考える立場の方にとっては、多くの示唆を与えてくれると思います。「高齢化」と「生産年齢人口の減少」が、セットでこの日本の国を訪れると言うことはすでにいろいろなところで既出のことではありますが、その出発点である本書に目を通しておくことは、決して無駄ではないでしょう。
『凡人として生きるということ』 押井守 幻冬舎新書090
凡人として生きるということ (幻冬舎新書) 押井 守 幻冬舎 2008-07 売り上げランキング : 47080
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著者の押井守氏は、宮崎駿と並んぶ日本を代表するアニメーション作家の一人です。しかし押井氏と宮崎氏では、その作風は全く異なり、前者が陰とすれば、後者は陽。宮崎氏のアニメの中にも、残酷な人生の一面を垣間見るシーンがないわけではありませんが、陽ゆえの明りの強さによってそのあたりは一般的には分らないようになっているようで、この二人の太陽と月のような関係性は、そのまま興行的な面での一般向けかマニア向けかというところにもつながっているように思います。
本書は、どちらかというと陰的な印象の強い、しっかりと人間の弱さや暗さに目を向けていく押井氏の真情が吐露されています。気むずかしく、ひねくれているような、社会を斜めに読み取ろうとする著者の心情により、この社会の閉塞感をうまくあぶり出しています。その閉塞感のようなものは、誰もが気がついているのだけれど、それをあからさまに訴えることは反社会的なことでもあるので、なかなかそれを指摘する人はいない。不都合なこともあるのだろう。そして、誰もが潜在意識では気がついているのだけれど、大きな社会のシステムや、抑圧された歴史の中で、意識に上がらないように仕組まれ、押し黙るように馴らされてしまっているので、それを口に出して的確に表現する人は少ない。そういった潜在意識にねじ込められてしまった人間の陰の側面をあぶり出すには、宮崎駿のような一般受けのする“陽”よりも、“陰”の存在としての押井守氏こそ適任なのだろうと思います。
本書は出だしから「若さに価値などない」と、若者にガツンと訴えかける。そしてその価値のなさに目覚めることで、等身大の自分を見つめる端緒とすべきだと語りかける。これは逆に言えば、「若さに価値がある」と無責任に若者を煽ってきた大人への追求でもある。
本書は、このような押井守流の常識の見方を通し、現在的な生き方を見つけようとする試みです。そしてタイトルの通り、凡人であることを認識することによって、人との接点を産み出し、自由を手に入れる、そういった生き方のアドバイスでもあります。本書は大人のための本ではなく、10代、20代くらいの若者にこそ読んで欲しい新書です。
【押井守の他の新書・他の著書・作品】
『日本人の心情論理』 荒木博之著 講談社現代新書438
日本人の心のあり方は、時に特殊な言われ方をします。その辺りは、内田樹氏の『日本辺境論 (新潮新書)』などでも読むことができますが、そもそもそのような特殊性はどこからくるのでしょうか。
今回ご紹介するこの『日本人の心情論理 (1976年) (講談社現代新書)』は、民俗学、比較文化論という分野から日本人の心情を分析しようとしたもの。特に、歌などの文学を題材にしながら、そこから伝わる心情を採取していくところは、本書ならではでないでしょうか。
本書を読み始めて意外なのは、いきなり沖縄の伝承民謡からはじまるところ。日本人の心情を考察するのであれば、まずは松尾芭蕉や枕草子、徒然草といった王道から入るのが常道のように思うのですが、本書の始まりは沖縄伝承民謡。著者がキーワードとする「清浄美」「きよら」というものが、この沖縄伝承民謡に如実に現れているという。最初はその意外性が伝わりにくい感じもしたのですが、数ページ読み進めていくと、著者の視点の置き所が、意外ではなく、逆にいかにしっくりくるものであるということがわかってきて、心に響いてくるものがあります。
そもそもどうしてこれほどまでこの文脈が心に響いてくるのか?
その一つは、ここに取り上げられている沖縄伝承民謡が、とてもきれいだからなのでしょう。沖縄の青い空、青い海、そういった沖縄の自然が目の前に広がってくるような、そんな「きよら」な風景が、そのまま「きよら」を求める心情につながっていく。その心情を基にしながら、日本人の根底に広がる心情の分析が進んでいく。
以上のような心情論理の分析は、心理学者や社会学者のような人には見られない視点です。しかし、それは突拍子もない強引な論理展開ではなく、日本人の心情や自然に寄り添った、あたたかくも納得できるうつくしい解説となっています。
【荒木博之氏の他の著書】
『努力しない生き方』 桜井章一 集英社新書
努力しない生き方 (集英社新書) 桜井 章一 集英社 2010-03 売り上げランキング : 21422
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著者の桜井章一氏は、プロの麻雀打ちという勝負師として、20年間無敗というとんでもない記録を持った“雀鬼”。
麻雀などというと、遊びやギャンブルの印象が強く、ましてやそれを職業として生きていこうというのは決して誉められたものではない。そういう意味では、本書は万人受けするものではなく、既に著者の職歴からして拒否反応を示す人もいるだろう。
しかし、麻雀も野球やスポーツと同じような勝負の世界のものと視点を変え、そして明日の保証もない厳しい勝負の世界ということを考えると、そこで生きてきた人の言葉は、一朝に値するものがある。ましてや、20年間無敗という記録は尋常ではなく、単なる運やテクニックだけで成し遂げられることではない。やはりそこには、プロならではの生き方、生きる智慧というものがあるのだろう。
本書の中で桜井氏は、タイトル通り「努力しない」ことを推奨する。それは一見すると、アウトローらしいひねくれた物言いに聞えるかもしれない。しかし著者が言いたいのは、努力をするという感覚をしながら努力をするのではなく、その道が好きだったり、その道が楽しかったり、自然と工夫しながら生きる術を身につける、そういった力の抜けた探求の仕方のことである。本書を浅く読んでしまうと、あ、努力しなくても良いんだと思ってしまうかもしれないが、そうではない。力を抜いて、できるだけ自然体で持続する、そういった努力を超えた柔軟な生き方のことである。努力を超えた努力とは、ある意味、幸田露伴の『努力論』にも通じるところがあるのではないだろうか。
個人的には、若いうちはがむしゃらに努力することも大切だと思う。それができるのが、若い人の特権だからだ。しかしそれだけでは必ず壁にぶつかるものだ。その壁にぶつかったときこそ、桜井章一氏の『努力しない生き方』が必要となり、読んでいてこころに広がる自分への肯定感が生まれるのではないだろうか。また、とことん努力をした者だからこそ、その後に力を抜くことの大切が分ることもある。
今現在壁にぶつかって、にっちもさっちもいかない方、努力をしてきたのに報われないと思っている方に、一読お薦めします。今までしてきた努力は水の泡ではなく、必ず何処かで報われる、それは力を抜いて、自然体になった瞬間なのかもしれない。
【桜井章一氏の他の本】